減量住宅のはじまり

取手市稲戸井。関東鉄道常総線「稲戸井駅」から徒歩15分位の住宅地にあったとある空き家。路地が網目状に張り巡らされ、何度来ても迷ってしまう迷路のような住宅地の中にある。
オーナーは、お隣に住む高齢のご夫妻。隣人から家を買ってくれと相談があり、購入してずいぶん経つ。
空き家になって2年。なかなか借り手がつかず、空き家にしておくのはもったいないと、取手アート不動産が主催した「空き家相談会」に参加され、相談に来られたのがはじまりだ。

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ちょうど時を同じくして、郊外に増えていく空き家や空き地に、アートが介入することで新しい変化を誘発する実験「あしたの郊外」のプラン公募で、若手建築家・飯名悠生さんの「減量住宅」という提案がなされた。「減量住宅」は、人がダイエットするように、増えすぎた住宅地、家の面積を減らしていくという提案だ。住みながら、不要な空間や住宅を取り除いていくという舞台に、この稲戸井の家が選ばれた。そして、「空き家」に「減量住宅」というアイデアをマッチングするという、とんでもないプロジェクトがスタートした。

高齢のオーナーにこの奇怪なアイデアが伝わるか、かなりドキドキだった。
そもそも「家」を減らすという行為は、資産をなくしていくという行為。経済原理からは考えられない。貸せる空間が小さくなれば、その分、取れる賃料も安くなる。
しかし、よく考えてみてほしい。大きい空間を維持し続けるには、毎日の掃除や維持にも手間がかかり、光熱費も嵩む。しかし郊外や地方都市では、そのエリアで貸せる賃料は、家の大きさで決まるわけでなく、アッパー(上限)が決まっているのだ。このあたりなら、賃料8万円以下でなければ、どんなに広くても借り手がつかない。人口が減り、家族の構成人数が減った現在では、家の広さ=資産価値ではなくなってきているのだ。

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減量されてどうなるのかは、スタートしてみないと分からない。そもそも「改修図」というものは存在しないからだ。ギャンブル性の高いプロジェクトではあるが、少なくとも4室も5室も余分な空間を持ち続けた住まいをダイエットさせ、最適化する。それが提案者・飯名さんの考えだった。

(Open A 大我 さやか)

次回につづく…

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